BBS DIARYLIBRARY 

ロリ〜タのひとりごと

2005/7/23 (Sat)  狐狸庵にて(1)



住む人もなく
静かに朽ちていくのみの
古い町家がアタシの生家です。


母屋から中庭、廊下を渡ると離れ家があり、そして広い裏庭が続きます。
昔、裏庭には蔵や小さい畑もありました庭には四季折々の果物が実る木々や針葉樹が深く生い茂っています。
梅雨があけると雑草が伸び放題です。
去年の毬栗がアタシの長靴にチクリと刺さり少し哀しくなりました。

柿の実も、渋柿なんて母が元気な頃は干し柿にしていたのですが、
今はお隣のお婆ちゃんも、彼女の家のお嫁さんも面倒臭そうです。
庭の山椒は大木に成長し、母屋の軒の下にまであちこちに生えています。
山椒の実はご近所の奥さん達が佃煮として重宝しているとか。
白い花が綺麗だったので適当に他の草を選んで生け花にして鑑賞。
客人に、あら。ラッキョウの花ですね・・(うむ、これがラッキョウか・・)

7月は母の49日です。
この家に親戚一同が集まることになりました。


いつも通り、お人よしのアタシがまず1番に帰省し家の掃除を1人で始めます。
暗黙の了解で、アタシが掃除担当になっているようです。
これは、おトンボ(末娘)の宿命だと思います。

近所の皆さんたちから、ロリちゃんお帰り。いつもご苦労さ〜ん!
と励ましをいただくと余計にヤルドー!と気合がはいります。
これをおトンボの意地。と申します。

あらゆる木窓を全部開放。
明治作りの家特有の臭いが一斉に外気と融合します。
気持ちいい〜〜〜。2階の木戸を開けて、声高らかに、ヤッホ〜!

仏間にて両親、ご先祖さま達にご挨拶。
彼らから気合を頂戴して行動開始。

障子の張替は庭が仕事場となり、2階から1階まで階段箪笥を何度も往復。
障子の古紙の剥がしが終わると綺麗に洗います。
紙を貼り変える前にまず乾燥。その間にと・・タッタッタッ
9つある和室の畳をエイエイと水拭きをします。

あら、昨年の干し柿が吊るしてある。
1個食べてみました。甘くて美味しい。
干し柿は1番上の姉とアタシの幼馴染のリコちゃん達が作ったものです。

布団の日干し中、塀の向こうから近所の皆さんが手を振っています。
これでロリ帰省の噂がたちまち巷に流れます。

ロリちゃん、お帰りなさ〜い。

3日間で掃除もほぼ完成です。疲労困憊。力尽きました。
アタシの体力は限界です。
でも・・
まだ終わってないよ〜!と両手の雑巾がブルブルと痙攣しています。

顔なんて埃で真っ黒なのに洗う暇がない。そんな時の来客は困りものです。
ロリの帰省を聞きつけた人たちがブラ〜とやってきます。

郵便局の引退した老局長さん。ソファに座り込んだら2時間は去りません。
キミのお父さんはハイカラな人だった・・などと昔話です。
一応、お茶とお菓子でおもてなし。嗚呼・・時間が・・

幼馴染たち、近所の人達が自家栽培の胡瓜、トマトなどを持ってきてくれます。
リコちゃんは家事手伝いでやることがないのでズーートいるし・・(汗)
雑談は・・楽しいんですけどね・・
やっぱり・・時間が・・・

お隣のお婆ちゃんのホカホカの栗オコワは絶品です。
お重箱が勝手口にソッと置いてあります。
栗は当家の庭で採ってくれていたものです。心優しいお婆ちゃんに感謝。

庭の木々と青空と白い雲をみながら縁側でいただきます。

時間がもったいないので寝る時間は数時間。
朝は4時に起床。作業開始です。

階段から転倒して“痛いよ〜っ!”と叫んでも誰も助けてくれないし、
お風呂のお湯が燃料切れ?で出なくて・・お風呂にはいれない!
姉に電話してもオロオロするだけでダメダ・・・・
なんとかする!
この忙しいのにお風呂直った?と何度も電話をしてくる。(汗)

こんな狐狸庵で、アタシは悲痛な気持ちになりました。

離れの母の部屋でごろりと大の字に寝転んで休憩。
眼を閉じると・・・
母の匂いがかすかに残っています。
母の愛用の裁縫箱にとても小さい銀の鈴をみっけ。可愛い・・

チリリ〜ン



掃除が終わった頃、姉たち、親戚たち客人たちがニギニギとやってきました。
ビールを飲みながら“ヤレヤレ”と言いながら庭掃除を始める客人もいて、
そんな滑稽な風景を心の中で冷笑しているアタシがいました。



2005/7/26 (Tue)  狐狸庵にて(2)



日中の諸々の行事も滞りなく済ませホッと一息。
冷たい麦茶を一気飲み。うまー!
うしっ!次っいってみよう!
アタシはエンドレスに多忙なのです。



夕方、突然の雷雨で熱気が昇華しました
庭の緑は透明な雫色に輝いています。
2階の格子戸と、張り替えた障子が涼を呼びます。
襖を全部取っ払って、御所飾りの御簾で演出。
中庭に吊るした硝子の風鈴の音がアタシを癒してくれます。


いよいよ客人達へ料理で接待です。ハァハァ。
お膳を階下の台所から運ぶのもおトンボのアタシの仕事なのです。ハァハァ。

ワンピースの裾がつま先に絡んで階段から落ちそ・・。オットトト。

姉たちは客人たちと談笑しています。彼女たちは口がうまいな・・・

妹のロリが本当に良くやってくれますんで。
それに私達よりズート若いんですから。
当然ですよね!オーホホホホ。


なにさ!少しは働けよ!ヽ(`Д´)ノ

ビール無いわよ〜。ロリ〜、持ってきて〜。

あ、はい・・ただいま・・タッタッタッタヘ(; ゜ ゜)ノ 

泊まらない客はそれで良いのです。サヨナリーなのです。

泊まり客のために布団をしいたり、お風呂を用意したり、ユカタをだしたりと、
あ、紐が足りない・・・ト゛ウシヨー。オロオロ。
母のタンスから腰紐をだして急場しのぎです。

お客が寝静まると、アタシは台所でお茶碗洗って、
そして・・朝ご飯の下準備。フ゛ツフ゛ツフ゛ツ・・
料理の一品に・・姉が中庭の蕗をキホ゛ンヌらしい・・
自分で作れよ!な〜んて言わないお人よしのアタシです。コトコトコト。

あ、もう寝なきゃ・・朝5時には起きなきゃ間に合わない。

寝よう!





ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

興奮して眠れない!

お母さん・・アタシ・・もう疲れました。ぅぅ。




2005/7/27 (Wed)  狐狸庵にて(3)



仏間でウトウトしていたら、
柱時計がボ〜ン、ボ〜ンと5時を知らせています。



帰省すると1番にこの時計のゼンマイを巻きます。ギーコ。ギーコ。
止まった時間がチクタクと動き始めるのを聞くと安心するのです。
大きな音で時を教えてくれるので家中の何処にいても何時かわかります。
こんな古い時計なんて捨てて電動にすればいいのに、と姉たちは言います。
でも、これは長身の父がいつも手巻きしていたもので捨てがたい。
背伸びして鍵をとりだし巻く時がなにげに嬉しいのです。

ガバッと起きて、台所へ。コトコトコト。
朝ごはんのメニューに自慢の特製玉子焼きも添えてみました。

ロリちゃん、早いね〜 おはようさん。といって客人の1人が起きてきました。
もうすこし寝ててよー。と言いたいところですが、

ニコヤカに熱いおぶと梅干で朝のご挨拶。

さてと、草取りしてあげよう。

あの・・木の下に毒蛇がでるそうなんで・・気をつけてね。

あははははは。そんなこと今時あるかいな。

離れで寝ている姉を起こして、特設の朝食ルームを作りました。
皆が食事をしている間に、アタシは2階のお布団の片付けです。ハァハァ。
山盛りのシーツを洗濯場へ。ト゛サッ。
掃除機はあと回し。お茶ださなきゃ。タッタッタッタヘ(; ゜ ゜)ノ 

ん?家の前の公園にポツポツと近所の老人たちが集まっています。
ラジオ体操第1〜〜!
2階の格子戸から、老人たちの体操をしばし見入ってしまった。
最近は、小学生ではなく、老人たちなんだ・・・フーン。
小子化問題も現実的だな。。

千葉の従兄が仕事のためさっさと去っていきました。
1人去り、5人去り、全員去り、

姉たちも、後のことヨロシク〜といって去っていきました。

そして、アタシは1人ぼっちになりました。





2005/7/28 (Thu)  狐狸庵にて(4)




古い家屋の中はシットリと涼しくて心地良いです。
冬はアラスカですが・・・

誰もいなくなった家のなかで、
アタシはゴロリと寝転び、天井の木目を見つめていました。

子供の頃のアタシはよく高熱をだし8畳の部屋に隔離されていました。
天井の木目を見ていつも空想をしていました。
(妄想癖はあの頃から始まったようです。汗)
あれは・・お姫様の顔、あれは・・エート・・王子さま。あれは・・うさぎと亀。

今のアタシには・・ただの木目です。

さてと・・気合を入れなおして、洗濯物を干しましょう!
漂白剤をいれて洗ったシーツに糊付けして物干し竿に干していきます。

ふぅ〜暑ぅ・・・・・


2階の全部の部屋に掃除機をかけて、廊下と納戸の板の間に雑巾がけ。
はずしていた襖をもとに戻し、御簾をクルクルと巻いて納戸の戸棚にしまって。
床の間たちのお軸も片付けてと・・花生けにもサヨウナラ。
日干ししたお布団を布団袋に詰めて防湿剤をいれてと・・
階下の納戸に座布団を入れてと・・ハァハァ。

ガランとした何もない和室たちにお疲れさま。

夕方は、シーツにアイロンかけです。これがかなりの体力なのです。
こんなパワーがどこに潜んでいたのでしょう。

庭にホースで水をかけ、ついでにアタシにも水をかけて冷水シャワー!
ヒェーー。チメテ・・・あははははは。

隣のお婆ちゃんがおハギをもってきてくれたので、これがアタシの夕飯。
もはや台所でご飯を作るエネルギーは微塵もありません。

玄関から、中庭、離れの戸をすべて開け放しているので、
表から後ろまでうなぎの長屋は風の通り道です。



水打ちした敷石を下駄でカランカランと歩きながら、
中庭の苔むした雪見灯篭の蝋燭に火を灯しました。

今夜はお月さまがでています。
家中の電気を消して、月の光で灯り取りいたしましょう。

縁側に座ってお月さんを臨んでいると背後で声が。ギョッ!

な〜んだ、お向かいの小学2年生のハジメちゃんでした。

おね〜ちゃん。線香花火しよ・・・

そして2人で縁側に座り、線香花火をしました。
ハ゜チッハ゜チッハ゜チッ・・・


綺麗ね・・・・

うん。キレー。


2005/7/29 (Fri)  狐狸庵にて(5)





ロリちゃんが帰ってくると明るくなって嬉しい・・・
今度はいつ帰ってくるのかな・・
と、迎えにきたハジメちゃんのお母さんが花火をみながらポツリと言いました。
う〜ん・・来年かも。

夜も深まり、アタシは2階の自室で眠りました。

妙な家の造りで、アタシの部屋と木床の納戸は別屋根の下にあります。
正面からみると、この部屋の屋根がより高く、まるで3階に見えます。
2階のそれぞれの部屋の廊下に木の手すりがあり、
そこから階下の玄関土間を見下ろすと箱庭がありました。
吹き抜けです。
小雨、雪の日は風情があったのですが、大雨になると大変でした。

壁は珍しい赤壁です。
壁が崩れ落ちて惨めだったので、
幼馴染の左官屋のアキラちゃんに白壁にしてもらいました。
母屋の壁も白壁ですが無残にも半分朽ちています。
雨漏りも激しく屋根も直してもらいました。
アタシ的には古い屋根が好きですが・・・
いくら幼馴染といっても無料というわけにはいきません。
古い家を維持することは大変なのです。

2階の押入れの隣の襖を開けると敵から逃げる為の隠れ階段があります。
これが本陣分家の名残です。
小学生のハジメちゃんの家も本陣分家です。
その隣に本陣がありますが、今は誰も住む人もなく朽ちていくのみのお屋敷です。
よそ者の祖父がこの地に土着した頃はこのような古い屋敷が殆どだったそうです。

祖父は幼少の頃、両親、親族たちと共に秋田から東京へ移り住みました。
その後、某・官吏としてこの地に派遣(左遷)されました。
そしてこの屋敷を買い、住みついたそうです。
はるか昔のことなので、
祖父母たちの面影については、古いアルバムと仏間の遺影で知るのみです。

昔の栄華は今いずこ。母の昔話と苦労話でアタシ達は成長しました。


木窓をあけると、隣の中庭の手入れされた木々の中に小さなお狐さまの祠が見えます。栗オコワのお婆ちゃんの家です。この家が本陣分家です。

今夜は月の光りが差し込んで部屋の中が眩しいくらいです。

疲れ果てたアタシは冷たい月光を浴びながら深い眠りにつきました。

真夜中、尿意をもよおしたので階下のトイレへ。

トイレは、中庭の廊下を渡った所にあり、離れの部屋に隣接しています。
昼間のような明るい中庭を見ながら廊下をギシギシと歩きました。
裏木戸の窓から月の光りが差し込んでとても明るい夜でした。




トイレまで・・あと3メートル。ギシギシ。

ギシギシ・・・・ギシッ。



ん? 月の光りの中に誰か立っている・・

アタシを真っ直ぐ見つめているような・・着物姿の女性・・



おかあさん・・・





2005/8/1 (Mon)  狐狸庵にて(6)





ほんの5秒程の出来事でしたが・・・・
アタシにはとても長い時間に思えました。
時が一瞬止まった感じでした。

母は・・いつも着ていた紬の着物姿です。
感情を見せなかった母が無表情にアタシを見ています。

アタシはこれまで幽霊や人玉を見たことがありません。
怪奇現象の経験もありません。霊感を感じる人間でもありません。

怖いというより、むしろ感動して母に微笑みかけました。
アタシは、一瞬立ち止まり、そして母に向かってかけよりました。

でも・・


母はフッと消えてしまいました。





お月様が優しい光りを放っていました。



もう一度会えないかと思い、母の部屋に暫く座って待ちました。
明るいとでてこれないかも・・・と思い暗くして待ちました。
そして仏間の母の遺影の前でも待ちましたが、
母は2度と現れませんでした。


それから・・・アタシは、
あきらめて眠りました。



朝、姉から電話があり、昨夜の事を話しました。

そう・・それは珍しいこと。
あなたが頑張ったことをお母さんは見てたのよ。
きっとアリガトウって言いたかったんだわ。
良かったね。ロリ。




2005/8/4 (Thu)  WORK OUT



黄色のペンキを使い切ったので、



アタシの夏はこれで完成。