住む人もなく
静かに朽ちていくのみの
古い町家がアタシの生家です。母屋から中庭、廊下を渡ると離れ家があり、そして広い裏庭が続きます。
昔、裏庭には蔵や小さい畑もありました庭には四季折々の果物が実る木々や針葉樹が深く生い茂っています。
梅雨があけると雑草が伸び放題です。
去年の毬栗がアタシの長靴にチクリと刺さり少し哀しくなりました。
柿の実も、渋柿なんて母が元気な頃は干し柿にしていたのですが、
今はお隣のお婆ちゃんも、彼女の家のお嫁さんも面倒臭そうです。
庭の山椒は大木に成長し、母屋の軒の下にまであちこちに生えています。
山椒の実はご近所の奥さん達が佃煮として重宝しているとか。
白い花が綺麗だったので適当に他の草を選んで生け花にして鑑賞。
客人に、あら。ラッキョウの花ですね・・(うむ、これがラッキョウか・・)
7月は母の49日です。
この家に親戚一同が集まることになりました。いつも通り、お人よしのアタシがまず1番に帰省し家の掃除を1人で始めます。
暗黙の了解で、アタシが掃除担当になっているようです。
これは、おトンボ(末娘)の宿命だと思います。
近所の皆さんたちから、ロリちゃんお帰り。いつもご苦労さ〜ん!
と励ましをいただくと余計にヤルドー!と気合がはいります。
これをおトンボの意地。と申します。
あらゆる木窓を全部開放。
明治作りの家特有の臭いが一斉に外気と融合します。
気持ちいい〜〜〜。2階の木戸を開けて、声高らかに、ヤッホ〜!
仏間にて両親、ご先祖さま達にご挨拶。
彼らから気合を頂戴して行動開始。
障子の張替は庭が仕事場となり、2階から1階まで階段箪笥を何度も往復。
障子の古紙の剥がしが終わると綺麗に洗います。
紙を貼り変える前にまず乾燥。その間にと・・タッタッタッ
9つある和室の畳をエイエイと水拭きをします。
あら、昨年の干し柿が吊るしてある。
1個食べてみました。甘くて美味しい。
干し柿は1番上の姉とアタシの幼馴染のリコちゃん達が作ったものです。
布団の日干し中、塀の向こうから近所の皆さんが手を振っています。
これでロリ帰省の噂がたちまち巷に流れます。
ロリちゃん、お帰りなさ〜い。3日間で掃除もほぼ完成です。疲労困憊。力尽きました。
アタシの体力は限界です。
でも・・
まだ終わってないよ〜!と両手の雑巾がブルブルと痙攣しています。
顔なんて埃で真っ黒なのに洗う暇がない。そんな時の来客は困りものです。
ロリの帰省を聞きつけた人たちがブラ〜とやってきます。
郵便局の引退した老局長さん。ソファに座り込んだら2時間は去りません。
キミのお父さんはハイカラな人だった・・などと昔話です。
一応、お茶とお菓子でおもてなし。嗚呼・・時間が・・
幼馴染たち、近所の人達が自家栽培の胡瓜、トマトなどを持ってきてくれます。
リコちゃんは家事手伝いでやることがないのでズーートいるし・・(汗)
雑談は・・楽しいんですけどね・・
やっぱり・・時間が・・・
お隣のお婆ちゃんのホカホカの栗オコワは絶品です。
お重箱が勝手口にソッと置いてあります。
栗は当家の庭で採ってくれていたものです。心優しいお婆ちゃんに感謝。
庭の木々と青空と白い雲をみながら縁側でいただきます。
時間がもったいないので寝る時間は数時間。
朝は4時に起床。作業開始です。
階段から転倒して“痛いよ〜っ!”と叫んでも誰も助けてくれないし、
お風呂のお湯が燃料切れ?で出なくて・・お風呂にはいれない!
姉に電話してもオロオロするだけでダメダ・・・・
なんとかする!
この忙しいのにお風呂直った?と何度も電話をしてくる。(汗)
こんな狐狸庵で、アタシは悲痛な気持ちになりました。
離れの母の部屋でごろりと大の字に寝転んで休憩。
眼を閉じると・・・
母の匂いがかすかに残っています。
母の愛用の裁縫箱にとても小さい銀の鈴をみっけ。可愛い・・
チリリ〜ン掃除が終わった頃、姉たち、親戚たち客人たちがニギニギとやってきました。
ビールを飲みながら“ヤレヤレ”と言いながら庭掃除を始める客人もいて、
そんな滑稽な風景を心の中で冷笑しているアタシがいました。