俯いたアタシの笑顔と濡れた髪が安らぎの証拠です。
しっとりした空気がアタシの心を包んで、振り向けば雨が降っています。
階段をあがると自動ドアが開き、ネットカフェのお兄さんが「いらっしゃい」と挨拶をしてくれました。いつものように一時間だけのネットタイムです。
席に案内され、上着をハンガーにかけて腕時計をPCの横に置きます。トイレに行き、手を洗いながら鏡の中のアタシを見つめます。オレンジ色の口紅を拭き取りカバンの中から歯ブラシを出して歯磨き。目脂がついてない?髪の毛は濡れているけど大丈夫。白いブラウスの胸の辺りに1点のシミを見つけて、バッグの中の瞬間脱色剤でパンパンと布を叩きました。見る見るうちにシミが消えたのでこれは優れもの。と感心するアタシです。そしてトイレのノブを回すと気分は
ショータイムです。
ほうじ茶を2杯カップ
にいれながらバイトの学生にかまってチャン。苦笑するバイト生を尻目に席に戻ると、どこからか鼾の音が聞こえます。ネットカフェは5人がPCを使い3人が長いテーブルで漫画を読んでいました。静かな夜は静かな人々と過ぎていく、アタシはそんな雰囲気がとても好きです。
下界を見ると黒い傘の群れが紫陽花色に発光してあの中にあの男もいるのね・・・と懐かしい気分になりました。
席に戻る途中、チラチラとPCの人々を見ると、イスにもたれて眠る人、動画を見る人、検索をする人、皆さん憩いの一時です。カタカタカタカタと騒音になりそうなスピードで打ち続けるアタシの作業と隣席の小さな鼾音とのリズムは輪唱してバロックの響きです。
立ち上がって背伸びをすると会計のバイト生と目が合い意味のない微笑みにアタシも意味なく交わします。
56分経過。忘れ物のないことを確認したアタシは会計を済ませ、来たときと同じ動作でトイレに行き口紅を塗りました。
外に出ると街灯に雨模様がみえました・・。
まだ降ってる・・。ほ〜い。ど〜ぞ。あら。(笑
あの男が透明傘をパッと開いてアタシに渡してくれました。
お客の忘れものだけど。どうぞ・・。ぇ・・・・・・
雨・・やみそうにないよ。じゃ・・お言葉に甘えて。
うん。おやすみ・・。おやすみなさい。